
【店長応援企画・店長のミカタ】
ワタミ・外食人材開発部部長 松山直樹さん
おもてなしの国ニッポン。その世界最高峰のサービス力を支えるのは、間違いなく現場を仕切る店長だ。日本のお家芸ともいえる「飲食業界」を牽引する主役たちが、どのように働き、どのようなキャリアを積んでいくのか。21世紀のニッポンの働き方を考える上で、この命題は非常に重要なイシューだ。
今回は、業態変更による業績回復、その業績回復をテコにした人材マネジメント強化をうまく実現していると評判のワタミさんに取材させていただいた。対応していただいたのは外食人材開発部 部長の松山直樹氏。さすが日本の外食産業をリードする企業の人事責任者だけあって、離職防止策、外国人スタッフ教育、従業員のキャリア形成など、旬の話題がポンポン飛び出すインタビューとなった。ぜひ参考にしていただきたい。
今回は、業態変更による業績回復、その業績回復をテコにした人材マネジメント強化をうまく実現していると評判のワタミさんに取材させていただいた。対応していただいたのは外食人材開発部 部長の松山直樹氏。さすが日本の外食産業をリードする企業の人事責任者だけあって、離職防止策、外国人スタッフ教育、従業員のキャリア形成など、旬の話題がポンポン飛び出すインタビューとなった。ぜひ参考にしていただきたい。
マニュアルで縛るのではなく店の個性を考えながら運営していく新業態
- 平賀
- 昨今では業態変更が軌道に乗っているというニュースも目にしますが、その業態変更の戦略はいつ頃から取られたんですか?
- 松山
- 2年前くらいからですね。まず「ミライザカ」という新しい業態の居酒屋の第1号店を2016年の6月にオープンさせました。
- 平賀
- 「ミライザカ」は、ワタミさんが以前からやっていた居酒屋の業態と、どのような違いがあったのですか?
- 松山
- 「和民」や「坐・和民」は店舗運営に関わることは全て自社で決めていましたが、「ミライザカ」は弊社としては初めて自社の外の方にコンセプターとしてのアドバイスをいただいて、客観的な意見を聞きながら開発を進めていった業態です。
- 平賀
- 具体的にはコンセプターのどんな意見を取り入れていますか?
- 松山
- 象徴的なところで言えばユニホームですね。これまで自社で運営していた業態では、自社で全て同じものを注文して支給して、着用の仕方も細かくルール化したり、マニュアルでしっかり固めていたんですよ ね。新業態ではコンセプターに白いエプロンを提案されたんですが、こちらとしては「え? 白って汚れが目立ってしまうのでは?」という不安があったんです。でもコンセプターさんは「今はこれがトレンドです」 ということで。
- 平賀
- 常識にとらわれずに、求められるものを追求していこうという?
- 松山
- そうですね。下に合わせるパンツも、ある程度の形の規定だけを伝えて、スタッフそれぞれで好きなものを履いてもらうようにしたり。
- 平賀
- 従来の業態の雰囲気より、少しラフでカジュアルな雰囲気が出ましたよね。
- 松山
- そうですね。接客にしても、オーダーを取るときに膝をつくのはやめようとか。昨今の飲食店は個性的な店舗も多いですから、マニュアルで縛るのではなく、店の個性を考えながら進めていくということが、 新業態では重視されました。

トライ&エラーで能動的にチャレンジした結果なら次につながる
- 平賀
- そういった意味では、サービスの在り方も変わるわけですよね?
- 松山
- そうですね。先ほども申し上げた通り、オーダー受け時の姿勢も変わりますし、接客はマニュアルで固めずに自由で親しみやすい雰囲気を大切にしました。「ミライザカ」では、その日のオススメを筆ペンで書くことと、清流若どりのモモ一本グローブ揚げを提供時にテーブルでカットするということだけを決めておいて、その他は各店舗やスタッフで工夫してもらっています。
- 平賀
- 店長さんや店舗責任者に戸惑いはなかったですか?細かなマニュアルや決め事がない分、特にお客様とのコミュニケーションでは、状況判断が難しい場面も増えてくるような。
- 松山
- おっしゃる通りで、決め事が少ないということについて、店長から不満や不安の声もあったんです。でも「なぜ今回は自由度を高めているのか」ということを、きちんと説明して回りました。
- 平賀
- 自由度を高くした意図を、あらためて僕もお聞きしたいです。
- 松山
- 今までの業態での接客は、すごく丁寧なものをスタッフにも求めていたんですが、反面、お客様にとってはどこか「距離がある」ものだったとも思うんです。枠にはまった業態にしないために、お客様との距離を近づけるような、もっと親しみを持っていただけるような、そうした店舗づくりのためには、自由度を高める工夫をしなければならないのではないかと。
- 平賀
- やはり、それくらい強い思いを持っていないと、本質的に個性豊かな魅力的な店舗はできないですよね。マニュアルからの解放が新業態を成功へと導いているのは、興味深い話です。
- 松山
- そうですね。新業態への変更はチャレンジでもありましたが、店舗を立て直す良い機会でもあったんですよ。
- 平賀
- と言うのは?
- 松山
- 旧店舗で再教育の必要を感じていたスタッフには、なかなか店舗を営業する中ではその時間が取れずにいたのですが、リニューアルのためのクローズ期間中に、しっかり再教育を行うこともできましたから。 中には保守的なスタッフもいましたが、「今のままでお客様を増やせると思うか?」と聞くと、「できないと思う」って言うんですよね。だったら、新業態で活気を出してやっていこうとメッセージを伝えることもできましたし。
- 平賀
- そういう準備期間として、非常に大事な時間だったんですね。
- 松山
- そうなんです。そこで店長やスタッフに、新しいお店のコンセプトを伝えることができました。

入社時の教育や研修でスタッフの不安を解消できたかどうかが大事
- 平賀
- これは確たる統計があるわけではないので、一般的によく聞く話としてお伺いしますが、よく業態を変えると辞めてしまう人も多いという話を聞きます。ワタミさんの場合はどうでしたか?
- 松山
- 今回はあまりなかったですね。店長やマネジメント層も変わらないので、スタッフの大規模な離脱はなかったです。
- 平賀
- アルバイトの採用についてもお話を伺いたいのですが、人材採用は順調ですか?
- 松山
- 14年~15年は業績が厳しかったこともあり、採用も難しかったんですね。でも昨年からは「堅調」といったところです。
- 平賀
- どの辺りで回復を実感されましたか?
- 松山
- アルバイトの総人数が増えてきたので、一番はそこですね。業態変更やリニューアルによって、新規の応募者が増えたこともあり、全体の応募者数は伸びました。
- 平賀
- オープニングスタッフは昔も今も人気ですしね。そういう意味でも業態変更の路線は、非常に有効な企業戦略だったのかもしれません。現在は、それぞれの店舗で外国人スタッフの採用含め、ダイバーシティ対応も積極的に行っているイメージがありますが、その辺りはいかがですか?
- 松山
- これからもっと外国人従業員の教育に力を入れていかないと、お店のレベルは上がっていかないと思います。20カ国語に対応する翻訳システムを使って、コミュニケーションを円滑に図る工夫をしています。
- 平賀
- すごいですね。
- 松山
- 画面が2台あって、日本語で入力するともう一つの画面には、英語やその他の言語に翻訳されたものが表示されるんです。
- 平賀
- スタッフに外国人が占める割合は、現在どれくらいですか?
- 松山
- 今は3割が外国人です。10年前は中国人スタッフが一番多かったので、漢字のニュアンスで何とか伝わってた部分があったんですが、今はネパール人スタッフが一番多くて、彼らは漢字は読めないですが、英語は分かるんですよね。なので、現在は、店舗のルールなどは中国語、韓国語、ベトナム語、英語と、3~4カ国語に翻訳したものを用意しています。
- 平賀
- 外食産業や飲食店に限らず、今は日本中で採用難が叫ばれている時代です。スタッフ採用で工夫されていることは何かありますか?
- 松山
- 今は「離職」にフォーカスしていますね。スタッフがどの時期に辞めがちなのかを追っていて、5割くらいは勤務100時間以内に辞めているんです。
- 平賀
- だいたい1~3カ月の間という感じでしょうか。
- 松山
- 店長のマネジメントレベルで、非常に差が出るんですが、スタッフが辞めない店長の要素とはどんなものなのか、それを今、探っているところです。

他の業態よりも居酒屋は接客回数が多い。その面白さを伝える
- 平賀
- ES(従業員満足度)が上がると離職率も下がりますよね。
- 松山
- そうですよね。導入時の教育で、店長からスタッフに対する寄り添いがちゃんとあるかどうかが大切だという仮説を立てているんですけどね。入社して2~3カ月が一つの山なので。
- 平賀
- おっしゃる通りだと思います。入社時の教育や研修が、きちんとそのスタッフの不安を解消するものだったかどうかが非常に大切です。そして、その際に、企業としての魅力をきちんと伝えられているかどうか──。ワタミでは、どんなことを仕事の魅力として伝えていますか?
- 松山
- 一つは、居酒屋の店舗運営は季節やトレンドによって山があるので、一つのチームとして目標を目指して頑張る達成感を得られるということ。もう一つは、時給プラスαの 部分ですね。メンバーと一緒に働くということもそうですが、居酒屋での接客の面白さについても理解してもらいたいと思っています。
- 平賀
- カフェやファストフード店とは違う面白さという部分ですか?
- 松山
- はい。やはり他のどの業態より、1組当たりに対する接客回数が多くなりますから、そういうところに面白みを感じてもらえるかどうかは大きいと思います。
- 平賀
- 御社は、アルバイトスタッフへの教育には積極的に投資をしているイメージがありますが、具体的にどんな機会を設けていますか?
- 松山
- 教育のためのツールを用意しています。「ミライザカ」では、実験的にではありますが、現在Eラーニングを導入していて、動画でマニュアルをアップしています。基本的にはオペレーションについての教育ですね。また、アルバイトスタッフでも、社員の代理になるような方には、本部主導の研修を行ったりもしています。
- 平賀
- ワタミでの社員のキャリアパスというか、ステップアップは、現在どんなロールモデルが示されていますか?
- 松山
- まず、店長になるまでのステップに3年。その間に五つの研修があり、それを踏んでいきます。3年たつとFA権が獲得できて、毎月のカウンセリングで本人の希望を聞くんです。比較的、希望は通りやすい会社だと思います。
- 平賀
- それは希望する業態や店舗、部署の希望ということですか?
- 松山
- そうですね。ただ、エリアマネージャーになるくらいまでのステップはそろえていきたいと思っていますが。
- 平賀
- その後のキャリアは人それぞれという感じですか?
- 松山
- その後という話になると、現状そこは弊社の課題とも言えるところですね。エリアマネージャーになった後のビジョンをどのように描くのかが難しいところです。エリマネを経験した後、ジェネラリストになるのか、スペシャリストとして極めるのか、あるいは独立するのか──さまざまな未来のイメージを提供していくのも企業の役割だと思います。まだまだ議論の余地があるところですね。
- 平賀
- 外食産業で働く人たちが増えていくためにも、ぜひその先の魅力的なキャリアモデルを開発してほしいですね。最後にお伺いしたいのは、ワタミが大切にしていらっしゃる企 業としての個性というか。業態変更が成功しているのも、そういったブレない軸があるからなんだろうなと思うんです。
- 松山
- そうですね。店長はじめスタッフの、ちょっとした仕事への取り組み方で「違い」をつくっていくことですかね。それがお客様に来店してよかったという「利益」の提供になるわけで。そこには常に謙虚でなければいけないと思っています。
- 平賀
- どんな新業態をつくることになっても、そういったワタミとしての文化はそのまま、引き継いでいってほしいですね。

昨今、ビジョン経営を目指す企業が増えてきたが、思えばワタミはその先駆者的存在だ。新業態への挑戦や人材マネジメントの改革など、新しい取り組みについての話が大半を占めたが、随所にワタミが大切にしてきたであろう「らしさ」がすごく伝わってきた。
個人的にお付き合いをさせていただいている他の幹部の方からも同じく「らしさ」を感じる。長年の歴史で育まれてきたビジョンの共有によって、企業の体幹が鍛えられているのだろう。
今後も居酒屋の仕事をもっともっと楽しくするような、そんな店舗運営や取り組みに期待したい。
◆本編資料(PDF)もしくは参考サイト(URL)はこちらから
◆プロフィール

松山 直樹(まつやま なおき)
ワタミ株式会社
外食人材開発部部長
◆本件に関するお問い合わせ先
ツナグ働き方研究所(株式会社ツナググループ・ホールディングス)
担当 :和田
※お問い合わせは、お問い合わせフォームからお願いいたします。
担当 :和田
※お問い合わせは、お問い合わせフォームからお願いいたします。