日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに減少を続け、2045年には最盛期の6割程度まで低下すると見込まれています。労働力不足がもたらす「縮む社会」は、社会と経済に大きな影響を与えると推察されることから、いま最前線で活躍しているビジネスパーソンだけでなく、女性や若者、高齢者、外国人などダイバーシティワーカーの更なる参画が不可欠です。そのため、働きやすい環境づくりを目指す「多様な働き方」につながる関連法制は重要度を増しています。
さらに、採用企業と求職者の保護の観点から「労働市場基盤整備」に関する法整備が加速。企業と求職者を結ぶ雇用仲介サービス事業者が、そのあり方と方向性に注目しています。
研究所では、企業人事や労働法制の分野で活躍する識者らとともに、施行される労働法制の要所と着眼点を解説していくほか、改正に至るまでの経過や背景も記録・分析しながら「あるべき姿」を提言。「働く」を取り巻くあらゆる労働法制の調査・研究機関として「雇用の未来」を拓きます。
Labor legislation
研究所が考察する労働法制
労働基準法
新しい時代の労基法のあり方を見据えて、厚生労働省の有識者会議「労働基準関係法制研究会」が活発に議論を展開。1947年に制定された労基法は戦前の工場法を前身とし、労働者が同じ場所と時間で指示に従いながら働く形を想定した規制となっています。しかし、現在は通信技術などの発展に伴って働き方が多様化し、画一的な法規制では労働者を守り切れていない部分と、逆に働く人にとって窮屈になっている規定も散見されます。長い時間をかけて浸透してきた法律の「見直しと変化」に、期待感とハレーションが交錯しています。
フリーランス新法
組織に属さないで働くフリーランスを保護する「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス新法)が、2024年11月1日に施行されます。発注者に契約内容の書面明示を義務付けるなど、フリーランスが安心して活躍できる環境づくりが狙いです。公正取引委員会が「取引適正化」について、厚生労働省が「就業環境整備」に関する政省令・指針を策定。立場の弱いフリーランスの"泣き寝入り"防止になるか、施行後の姿を追います。
職業安定法
雇用仲介事業者が求職者に金品を提供して転職を促す行為を防止する、いわゆる「就職お祝い金」の禁止規定。職業安定法の指針に記されていますが、この実効性確保に向けて厚生労働省は追加的対応に乗り出します。転職勧奨禁止を職業紹介事業の許可条件に加えたり、募集情報等提供事業(求人メディア)も新たに禁止規定の対象とするなど、法令順守徹底のためのルールを強化する方針。一方で、「金品提供によって需給調整機能を歪める行為を防ぐ」という追加的対応の趣旨に照らして、求人メディアには禁止規定に該当しないケースも明確にしました。今回の措置が必要となった背景や対応策の中身を検証します。
賃金デジタル払い
企業が従業員の給与を電子マネーで支払う「賃金デジタル払い」の資金移動業者として、スマートフォン決済アプリ大手のPayPay(ペイペイ、東京都)を初めて指定しました。「賃金デジタル払い」は、企業が労働者の希望に応じて、銀行口座を介さずに給与の全部または一部を決済アプリなどに振り込む仕組みです。2022年秋、「通貨で直接、労働者に全額支払う」と定める労基法第24条第1項の省令を改正し、それまで例外として認めてきた「銀行口座・証券総合口座」に新しく「資金移動業者」を追加しました。この試みが、新たなイノベーションを生み出すか注目されます。
新卒採用ルールの形骸化問題
2025年春入社の大学生らの就職活動は、前年の6月までにヤマ場を越えました。6月1日の企業による採用選考の解禁からわずか1カ月後に、内定率が軒並み80%を超えている状態です。就活ルールの形骸化が一層進んでいる証左であり、「新卒一括採用」が時代遅れになっていることは明白。政府が示しているガイドラインでは、「3月から企業の広報活動開始」、「6月から採用選考活動の解禁」、「10月から内定決定」となっているが…。新たなルールづくりの動きをウオッチします。
労働市場改革とリスキリング
政府は2024年6月、「経済財政運営と改革の基本方針2024」(骨太の方針)と「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024改訂版」を閣議決定しました。骨太の方針では、デフレからの完全脱却を主眼に政策を総動員して「賃上げを後押しする」と明記。23年版に引き続き、全世代型リスキリング(学び直し)の促進などを含む労働市場改革を断行するため、「国民会議」の開催を検討します。キャリアアップ支援や企業間・産業間の成長産業への労働移動を総合的に担える人材サービスの役割と責務がさらに高まる見通しです。
カスハラ防止の法制化
サービス業などで顧客による著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント=カスハラ)を防ぐ法規制の動きが本格化しています。政府が明らかにした「骨太の方針」原案の中に、カスタマーハラスメントを含む職場におけるハラスメントについて「法的措置も視野に入れ、対策を強化する」と明記。カスハラ防止策に向けた検討を初めて政府方針に盛り込みました。ただ、他のハラスメントと異なる側面もあり、どのような規制を敷くのが効果的なのか、今後の論議が注目されています。
解雇規制緩和
解雇無効時の金銭救済制度の創設――。「必要・容認論」と「不要・否定論」が真っ向からぶつかる日本の労働政策、法制上の課題です。雇用の柔軟化・流動化を促す方策として肯定的に捉えられる一方で、「カネでクビ切り」との批判も強く、賛否が割れます。20年以上にわたり、浮上しては沈む「解雇規制緩和」や「解雇の金銭解決」を巡る動きと課題を考えます。
技能実習法・入管法改正
「技能実習」に代わる「育成就労」創設や永住許可の適正化を柱とする出入国管理・難民認定法と技能実習適正化法の改正法が成立しました。実態として労働力確保に利用され、国際社会から人道的な批判もあった技能実習制度を廃止し、外国人材の「確保と育成」を目的とする実態に即した制度に転換。新制度は2027年の運用開始が見込まれます。改正のポイントと共生社会のあり方などを考察します。
障害者雇用
障害者雇用促進法の施行規則改正に伴い、2024年4月から企業などの障害者雇用の法定雇用率が引き上げられました。企業の場合は2.3%から2.5%になり、対象企業も従業員43.5人以上から40.0人以上に拡大します。2026年7月からは各2.7%、37.5人以上と段階的に広がることも決まっていますが、近年、雇用数の増加を最大目標にしてきた政策に疑問の声も出ており、雇用の「質の充実」を重視する動きも活発になっています。
高齢者雇用促進法
働く高齢者は毎年、増えつつあり、人手不足にあえぐ日本の企業・社会を底支えしています。急速に進む少子高齢化の必然的な成り行きですが、高齢者を囲む就労環境は必ずしも十分ではなく、今後に大きな課題を残したままです。日本の総人口1億2,376万人(前年比59万人減)に対して、65歳以上の高齢者は3,625万人(同2万人増)となり、総人口に占める比率は29.3%(同0.2ポイント増)。人口も比率も過去最高となりました。このペースが続くと、2040年には35%近くになると予想されます。
社保適用拡大と年収の壁
フリーランスに対する労災保険の適用、短時間労働者に対する雇用保険の適用拡大など、これまで社会保険の適用外だった労働者の適用拡大の動きが活発化しています。労働人口の減少下で、新しい就労形態が急速に伸びており、「男性正社員中心主義」を前提に成り立っていた旧来の労働者保護制度では対応できないことが背景にあります。フリーランスは企業などに雇用される労働者ではなく、独立した事業主という法的位置づけのため、労働基準法などの保護を受けられない立場です。社会保険と年収の壁の打開策の展開を検証します。