【多様な働き方を研究するコラム】
人手不足と人余りがニ極化する近未来の話
政府は、この6月22日に成長戦略の素案をかためました。第2次、第3次安倍内閣を通じて3度目となる成長戦略のキーワードは「生産性革命」。過去2回の成長戦略は、岩盤規制改革を柱に、雇用分野においては、脱時間給制度(ホワイトカラー・エグゼンプション)の創設を盛り込むなどしていました。
今回の戦略は、今後も人口減少で労働力不足が深刻化すると予測される中、持続的経済成長を実現するためには、生産性の引き上げが不可欠と判断されたため、供給制約を解消すべきだというモードにシフトした模様です。具体策としてあがっているのが、ロボット開発、インターネット活用、ビッグデータへの投資強化など。例えば、国家戦略特区内でスマートフォンを使って処方薬が購入できる取り組みを行い、人手不足を補う技術の開発を後押しするというものです。
昨年の秋、英オックスフォード大学で人工知能などの研究を行うマイケル・A・オズボーン准教授が発表した論文「雇用の未来」では、人間が行う仕事の約半分が機械に奪われるという衝撃的な予測が語られています。確かに『Google Car』に代表されるような無人で走る自動運転車が普及すると、タクシーやトラックの運転手は仕事を失うかもしれません。
さらにオズボーン氏は、人と人とがコミュニケーションをしなければいけないという点で機械化は難しいとされてきたサービス業も、例外ではないと述べています。いまやタブレット端末で注文できるレストランも増えていますし、ウェイターやウェイトレスの仕事をロボットが担うようになる可能性も充分に考えられると。
そもそもは労働力不足を補うために推進されたロボット化・IT化政策によって、逆に雇用機会が喪失していく、というのは近未来SFのストーリーのようでもありますが、それ以前に、人口減少と超高齢化社会においては産業構造が激変し、労働力需要が現在と大きく変化していきます。またグローバル化がもたらす変化もあります。
ある業界のある職種において雇用が失われ、逆にある業界のある職種において人材が不足する。ある人は失業のリスクにさらされ、ある人は人材争奪戦の真っ只中にいる。ロボット化・IT化しやすい仕事と人手不足化が進む仕事が「正の相関」にならないと、前述のように雇用をめぐって相反する事象が同時に起こる、そんな事態が加速しそうです。例えば高齢化によってもっとも需要が高まるであろう介護の仕事は、なかなか機械化が難しく人手不足感は解消されにくいことが容易に想像されますよね。
ロボットやIT・人工知能などの「技術」と、働く「人」の役割分担が、できるかぎり相互補完的にデザインされていく未来を望む次第です。そうでないと悲観的近未来SFが現実になってしまうやもしれません。
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