
【店長応援企画・店長のミカタ】外国人雇用に関する取り組みとは
テンアライド芳澤聡さん・塩川朋史さん
今回は、外国人雇用の先駆的存在であるテンアライド株式会社をインタビューさせていただいた。同社が有しているのは外国人採用のノウハウだけでない。母国語で研修を行う教育体制、あるいは外国人スタッフも参加できる接客コンテンストを開催するといったモチベーション施策。こういった外国人の活躍ノウハウに一日の長がある。人事責任者である常務取締役人事部長・芳澤聡氏と、現場で外国人トレーニングの陣頭指揮を執る人事部教育課人財開発室課長・塩川朋史氏に、外国人雇用への思いや職場マネジメントについて、お話を伺った。

- 平賀
- アルバイトスタッフの中で外国人スタッフの占める割合が、御社は競合他社に比べても高いですよね。
- 塩川
- 直近のデータでいうと、全アルバイト約3000人のうち、外国人アルバイトが約1000人ですから、3割強という感じですね。
- 平賀
- 外国人採用を積極的に進めていったのは何年前からですか?
- 芳澤
- 2014年くらいからです。その当時は2800〜2900人のアルバイトのうち外国人スタッフは320人でしたから、まだまだ10分の1程度だったのですが、本格的に大きく舵を切ったのが2015年の4月です。
- 平賀
- きっかけは?
- 芳澤
- 求人媒体に広告を出しても採用しにくくなってきていたというのが、まずありました。そんな中で、すでにうちで働いていた外国人アルバイトさんが、また別の人を紹介してくれるというのが増えていって。気がつくとベトナム人のアルバイトがけっこういる状態だったんです。じゃあ思い切って、一度にたくさんの人を集めて説明会なり面接なりをしてみようかと。
- 平賀
- その時はどのように告知して人を集めたんですか?
- 芳澤
- あるベトナム人のアルバイトさんが「20人くらいは紹介できるかも」ということだったので、その方たちを集めて合同募集という形式で集めました。彼らは我々以上にSNSを駆使しているので、さらに情報は拡散して、その人が知らないベトナム人の方もたくさん来てくださって。結局120人くらいの方が面接に来てくださったんです。
- 平賀
- 一人のアルバイトさんから、そこまで広がるというのはすごいですね。留学生の方だったんですか?
- 芳澤
- そうです。でも確かにたくさん採用はできたんですが、今度は「教育」という課題が出てきます。
- 平賀
- 確かに。日本語が堪能な方ばかりではないでしょうし。教育はどんなふうに行っていったんですか?
- 芳澤
- 日本語が話せるベトナム人アルバイトがいる店舗に、4〜5人くらいずつまとめて入ってもらって各店舗で教育していきました。外食で働きたいという外国人は、圧倒的に日本語を勉強したいという人が多いので、モチベーション的には問題なかったですね。
- 平賀
- まったく話せない人も?
- 芳澤
- そういう方は、最初は調理場に入ってもらって従業員とのコミュニケーションから始めて、何ヶ月かしたらホールで接客、という流れでどんどん広げていきました。

- 平賀
- 現在は、アルバイトだけでなく、正社員でもベトナム人のスタッフを雇用されてますよね。そして教育の強化も進められて。
- 芳澤
- 2017年の10月から本格的に動き出しましたね。
- 平賀
- 神田店の2階を研修センターにして、教育を強化しようと。
- 塩川
- まず全業態の仕事に関するマニュアルをベトナム語に翻訳するために、ベトナム人スタッフを正社員として採用しました。現在では彼に外国人教育も任せています。
- 平賀
- 各店舗で教育するというやり方では難しいということですか?
- 芳澤
- そうですね。一定数を超えてしまうと、それ以上は店長としても教育にまで手が回らないという声も出てきて。でも採用はもっと進めていかないと人材が確保できないですし、採用した方をどう戦力化していくかというのは非常に重要な課題でしたから。店長の負担なく教育が進むようにと、ここでトレーニングした人材を店舗に送り込むという方法にシフトしていきました。
- 平賀
- 具体的にはどんな研修を?
- 塩川
- 初期研修については、ホールが2日、調理が1日と、時間はそれほど長くないのですが、会社のルールや日本の文化を説明したり、ロールプレイング的に勉強したりすることもあります。入社1〜2ヶ月後にはハンディやレジに対応するための教育もありますし、カリキュラムを組んで受けていただいています。
- 平賀
- 教育をしていく中で、一番重要だと感じるのはどんな点ですか?
- 塩川
- 祖国では良しとされていたことが日本ではダメだったり、そうした文化の違いを理解してもらうことは大切ですよね。

- 平賀
- 我々からすれば遅刻はダメだけど、彼らからすれば、どうしてそんなにきっちりしているんだ、っていう価値観の違いとかありますよね。
- 芳澤
- そうですね。ただ素直な子が多くて、きちんと教えてあげれば理解してくれます。以前は店長が身振り手振りで伝えていたことを、通訳を入れて、母国語で教えることで理解度はかなり高まりましたね。
- 平賀
- 今後もベトナム人スタッフを積極的に採用していく意向ですか?
- 芳澤
- そのつもりです。弊社としては今後、ベトナム出店も目論んでいて、ベトナム人スタッフは活躍の場を広げて、海外進出を進める部署に異動してもらったり、優秀な方であれば国籍は問わず本部登用も考えています。もちろんトレーナーの雇用もそうですね。
- 平賀
- だとすると、特定技能についても、御社は積極的に取り組まれていますか?
- 塩川
- 来年の4月には数名の外国人社員を雇用したいという目標もあり、前向きに模索しているところですね。すでに働いている外国人スタッフには優秀な人も多く、店長からも社員に推薦したいという声が増えていて、店舗だけでなく、本部などほかの仕事に就く人材としても活躍する人が出てきたらいいなと思っています。
- 平賀
- 実際にすでに特定技能の受験を申請したスタッフもいますか?
- 塩川
- 6月の試験で2名受験し、そのうち1名が合格しました。PCでの申し込みを代行してあげたんですが、当日10時から開始の申し込みに、なかなかつながらず、結局申し込みが完了したのは15時でした(笑)。
- 平賀
- そうした環境もまだ整っていないような状況なんですよね。
- 芳澤
- 私たちは今年の4月に今回の制度の検証を行い、6月にスタッフ2名が受験、1名が合格しました。さらに、8月に既存の外国人スタッフ向けに特定技能の説明会を実施するのですが、現時点ですでに受験希望者が10数名います。
- 平賀
- すでに働いているスタッフなら日本語レベルも高いでしょうしね。やはり御社としては、内部でスタッフとして働いている人の中から、特定技能で採用するお考えですか?
- 芳澤
- すでに働いている人たちの中から戦力化していきたい、社員になってもらいたいという思いが強いですね。特定技能について興味があるアルバイトさんにはしっかりサポートしていこうと思っています。
- 平賀
- 他の企業の場合はまだ、外国人スタッフを社員としての戦力とは捉えていないところが多いけれど、御社は海外出身とか関係なく、優秀な人はコア人材化していくイメージがあります。
- 芳澤
- そうですね。一昨年前から、外国人スタッフを対象とした接客コンテストも始めたのですが、中には日本人より優秀なスタッフもいっぱいいて、そう考えればマネジメントも含め、国籍は重要ではなくて、大事なのはその人の能力なんですよね。
- 平賀
- その外国人スタッフ対象の接客コンテストもそうですが、外国人労働者に関しての思いと、経営戦略的な部分が一貫していて、とてもうまく運営されているという印象です。
- 芳澤
- 働く環境の中に自然に溶け込んでいけるような雰囲気は、どんどん広がっていきましたね。例えば今日は金曜ですけど、仕事終わりにみんなで飲みに行こうというときも、国籍問わずみんなで行きますし、フットサルやバーベキューなんかで交流を深めたり。労働組合に関する説明もなかなか難しいですけど、そこもきちんと伝えるようにしています。

- 平賀
- これは外国人スタッフに限ったことではないんですが、特に飲食業界は人手不足が深刻で、アルバイトの採用や定着はどの企業にとっても最大の課題となっています。特に定着という面で、従業員の満足度を上げるための取り組みは必須なわけですが、御社はそうした、いわゆる働き方改革にも積極的ですよね。
- 芳澤
- 2017年から大晦日の全店休業を進めて、無理にでも休んでもらうようにしました。今年の4月からはアルバイトさんの有給取得状況についても、店長だけじゃなく本人もいつでも把握できるように、店舗に掲出したりするようにしています。実際に取得率も上がりました。
- 平賀
- 「いつでも好きなときに使っていい」雰囲気作りは大切ですよね。
- 塩川
- そうなんです。外国人スタッフは特に、有給があるということも理解していなかったりするので。
- 平賀
- 取得率は上がったんですか?
- 芳澤
- はい。対策前は33%程度だったのですが、いまは40%にまで上がってきました。できれば70〜80%まで促進していきたいと考えています。
- 平賀
- なるほど。
- 芳澤
- 採用戦略はいまや定着戦略が9割を占めます。いかに定着してもらうかという中では、休めるかどうかは大きなポイントです。最初に社員を休ませるほうに舵を切ったんですが、その分の負担が全部アルバイトにいってしまって。社員の休みは増えたけれどアルバイトさんの働く時間が長くなってしまった。だから、社員もアルバイトもみんなが休める状況を作る、労働時間を抑えるという中で、今年の春には1店舗あたりの従業員の定数を見直そうということになりました。
- 平賀
- 雇用するアルバイトの人数を増やしていこうと?
- 芳澤
- はい。1店舗20人でまわしていたところを25人とかに増員して。
- 平賀
- 稼ぎたいという意欲が強い外国人のスタッフはシフトを削られたりするのは嫌がりませんか?
- 芳澤
- 週3とか週2とか、決めた時間をしっかり働かせてあげれば、問題ないですね。ただ、外国人アルバイトが増えてきて、ひとつ悩みなのが、旧正月の時期に一気に人が減ってしまうこと(笑)。以前なら、1年で社員の残業時間が一番増えるのは12月だったんですよ。それが今は2〜3月の残業が一番多い(笑)。
- 平賀
- それだけ、外国人スタッフの存在感が高まっているということですよね。今日は興味深いお話をありがとうございました。
* * *
良い商品を安価に提供してくれる良心的なサービス。急激な拡大戦略ではなく、地に足が着いた経営方針を貫く。テンアライド株式会社には、そういったイメージがある。外国人雇用に関しても、その思いが受け継がれているようだ。試行錯誤し、外国からやってきた働き手の側に立った施策がいくつも展開されている。
例えば母国語研修トレーナーの配置は、「公平」の提供。言葉の壁が原因で日本人スタッフ教育に劣後しがちな部分をしっかりフォローし公平感を担保している。また接客コンテンストへの参加は「平等」の担保。文字通り平等な機会提供によって、彼らの士気は当然上がる。組合参加や福利厚生の考え方に関しても然り。
この公平(ケア)と平等(フェア)のマネジメントは、まさに「良心的な経営」というDNAのうえに、自然に醸成されてきたのだろう。こういう企業こそが、特定技能制度とマッチしていくのではないか。単なるバイトではなくコア人材として捉えることが、その解だから。

◆本編資料(PDF)もしくは参考サイト(URL)はこちらから
◆プロフィール

芳澤聡(よしざわ そう)
テンアライド
常務取締役人事部長
◆プロフィール

塩川朋史(しおかわ ともふみ)
テンアライド
人事部教育課 人財開発室 課長
◆本件に関するお問い合わせ先
担当 :和田
※お問い合わせは、お問い合わせフォームからお願いいたします。