【多様な働き方を研究するコラム】とにかく褒めればいいってもんじゃない問題
金沢大学の金間大介教授が書いた「先生、どうか皆の前でほめないでください」という本が最近話題です。
今どきの若者は承認欲求が強いーー。オトナ世代に定着している常識です。だからこそコミュニケーションのベクトルは、当然のごとく褒めて伸ばす。これは今どきの若手社員への接し方の基本。そんな中で褒めちゃいけないと言われると、「え?」となりますよね。手前味噌になって恐縮ですが、拙著「イライラ・モヤモヤする今どきの若手社員のトリセツ」でも、若者に対する褒め方について触れさせていただいています。実は、若者の褒め方、難しいんです。
ある企業のマネージャーが「最近の若手は営業表彰されるのが嫌い」だと嘆いていました。 “出る杭は打たれやすい、陰でどうこう言われるのが面倒だから”だそうです。目標を達成したときには、ガッツリ賞賛を贈る。極端に周囲の目を気にする今どきの若者とっては、これがインセンティブにはならず、むしろ迷惑に感じるのです。
こうした意識は、明らかにSNSの影響を受けています。SNSによって、自分アピールができるようになった反面、アピールが強すぎると、そのSNSで叩かれる。いわゆる炎上とかオンラインの誹謗中傷というやつです。
友達に認めてもらいたくて仕方ない。でも自分アピールが強すぎると逆に叩かれる。これが、若者の最大の恐怖です。常に誰かに見られているリスクを念頭に置いたうえで、気づかれないように自己を発散すべく投稿する。彼らは極めて高度なコミュニケーションスキルを研ぎ澄ます必要に迫られているのです。
この代表例が「匂わせ」でしょう。ご存知のように、「匂わせ」とは事実を明言せずに、見た人がそれとなく気づくような何かを匂わせる行為のことを指す言葉です。
SNSやブログなどで、恋人がいるという事実を明言はしないものの、手をつないでいる写真などを投稿することで、交際を間接的に匂わせる。こうした恋愛関係のシーンでよく活用されます。アピールしすぎもマズいから、煙幕を張りながらさり気なく自慢する。そんな状況下で編み出された投稿の形態が、こうした「匂わせ」なのです。
安易に、そして派手に、褒めればいいというものじゃない。そんな若者の価値観に近づけたとして、じゃ、どうやって褒めればいいのかという問題に直面します。
「職場で『アレやっときました!』と仕事の報告したとき、目も見ないで『ああ』とか、素っ気ない返事されるのとか、あーゆーのが一番テンション下がります。せめて『ありがとう』の一言でもあれば……」
職場の若者の脳内には、よくこんな気持ちが渦巻いていますが、この気持ちにこそ、実はヒントがあるのです。
レスポンスがない、反応が薄いことに関する不満も、SNSコミュニケーションの発達による影響の一側面。SNSでは、自分が何か投稿すれば、どんなささいな内容でも何件かレスポンスがあるというのが普通です。逆にレスポンスがなかったりしたら、彼らは言い知れぬ不安に襲われます。何かおかしな投稿をした? まわりに変なふうに思われてない? そんな気持ちが増幅していきます。だからこそ、逆に友達の投稿にほぼ自動的に「いいね!」を押すのです。
友達の投稿に無心で「いいね!」を押す。SNSというオンライン社会の習慣を、彼らは職場にも持ち込みます。なにかにつけて「いいね!」がデフォルト。だからこそ、職場においても「日常のプチ褒め」が求められるのです。
SNSによって増幅された「承認欲求」と「周囲への忖度意識」。その中で葛藤する自意識。これが、今どきの若者を理解しにくくしているものの正体です。なんだかとても複雑で、やや気の毒な気もしてきますが、そんなSNS社会を生きる若者世代には「プチ褒め」がスタンダードなのですね。
今どきの若者がよく言うのは「身内でさっくり褒めてくれればいいっす」的なコメントです。部署内のミーティング、もっというと一対一の面談なんかで、サラリと褒める。メールやチャットツールで褒めメッセージを送るのでもいい。なんか地味ですが、こういう感じが、じわじわ承認欲求が満たされるようです。若者が望んでいる褒め方とは「質より量」。至ってシンプルなんです。
もっと言うと、褒めに至らないくらいの「プチ感謝」も十分に効果的です。というか、感謝の方が受け取りやすいという声もあるくらいです。
例えば、報連相には必ず「ちょい足し」して返す。言葉はなんでも構いません。「助かったよ」と感謝を伝える。あるいは「大変だったろう」と共感してもいい。こんな感じの「プチ感謝」、ぜひ試してください。
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