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ツナグ働き方研究所

03 COLUMN2018.07.17

  • コラム

    【STYLE】
    Vol.1 洗いざらしのデニムのような若きソムリエがいた/田井良樹さん

    生まれ変わるならこんなヤツ…。
    稀にそんな人に出会うことがある。
    共通して彼らには、STYLEがある。
    嫉妬さえ覚えるようなそのSTYLEに、
    五感が強く揺さぶられるのだ。

    STYLEとは在り方だ。
    生き方であり、働き方だ。
    田井良樹さん/Bar à vin MAISON CINQUANTE CINQ
    代々木上原のワインバーにて

    東京メトロ千代田線の始発駅、代々木上原。


    小田急線沿いに住む私にとって通勤の中継駅で、帰宅時に途中下車することが少なくない。電車を乗り換えるためにホームに降り立った時、この街が放つ空気感に惹かれて、つい改札を出てしまうのだ。苦笑。

    目立たない看板に素っ気なく「Bar à vin (バー・ア・ヴァン)」と書かれた立ち飲みワインバーは、そんなときに立ち寄る一軒だ。


    数年前、このワインバーは静かに現れた。カジュアルな雰囲気が、いい感じを醸し出している。しかし、すごく敷居が高かった。いかにも代々木上原在住オシャレピープル的な常連客で連日賑わっているのだ。

    かなりのアウェイ感に、なかなか足を踏み入れることができずにいた。


    Tシャツにデニム…これがソムリエ!?

    ある日、意を決して扉を開けてみた。カウンターだけのスタンディングバー。いわゆるバーカウンターではなく、ユニークな円形のテーブル。10人も入ればいっぱいになってしまうような小さなハコ。店内には、若いスタッフが一人。それが田井くんとの出会いだった。


    聞けば、Vin nature(ヴァンナチュール=自然派ワイン)のバーで、彼が一人で切り盛りしているとのこと。Tシャツにデニム。童顔。一見学生バイトと言ってもいいくらいだ。髪もしっかりセットされているわけではない。てゆうか、きっと何の手入れもしていないんじゃないか。


    ワインバーのソムリエといえば、ピシッとアイロンがかかった白いシャツに黒いボウタイ姿が目に浮かぶ。そんな一般的なソムリエのイメージとは真逆。もちろん最近ブームになってきた自然派ワインのバーは、カジュアルな雰囲気のお店も多い。

    しかし彼の第一印象は、置いてあるワイン以上に「ナチュール」だった。


    実は、自然派ワインバーの注目店

    改めて彼の名前は、タイくんという。田んぼの田に井戸の井。ややローカル風情漂う苗字は、一段とソムリエっぽくない。笑。彼が創り出す空気感と言うか、店内に流れる何ともいえない居心地の良さが癖になり、仕事帰りに立ち寄る回数が増えていった。

    それでも、すぐに田井くん欠乏症になってしまうので、この近辺に住む仕事関係者との打合せは、必ずこのワインバーでやることにしたくらいだった。


    ちなみにこのBar à vin MAISON CINQUANTE CINQは、メディアにも幾度となく紹介される最近注目のワインバー。自然派ワインが好きで、厚木から1時間以上かけて通う熱心な客もいる。

    田井くんが自らセレクトしたVin natureを味わい、田井くんとVin natureに対して語り合いたいのだ。

    彼は毎年渡仏し、自分の目と舌でワインを買い付けてくる。当然のことながらVin natureへの造詣はハンパない。


    心地よい空間演出の天才

    一方で、以前隣になった40代の男性客は、ワインのことはよくわからないが、田井くんに会いに来ていると言った。彼も自分と同じ系の常連客なのだ。


    ほとんどが1人客。詰め込んでも10人入らないキャパ。立ち飲み形態。見知らぬ客同士の会話が必然となるロケーションにおいて、その空気感をオーガナイズするには、相当な手腕が必要となる。確かに、田井くんは会話の引き出しが多い。70年代のシティ・ポップから最新のキャンプ情報まで、どの世代にも対応できるくらいバリエーションに富んでいる。だからか、若くして会話の回しが異常に上手だ。


    それでも彼からは、その空間を仕切っていかねばという気負いのようなものは1ミリも漂ってこない。むしろ脱力感さえ感じるくらいのコミュニケーションだ。かしこまりすぎることなく、へりくだりすぎることなく、時には、そのベビーフェイスには似つかわしくないくらいの鋭いツッコミを入れてくる。だからこそ、彼が創り出す空間の雰囲気が心地いいのだ。


    カッコつけていないのにカッコいい

    生まれ変わるならこんなヤツ。

    私が嫉妬するくらいにそう強く感じるのは、まさに、田井くんのこの「自然体」なSTYLEに尽きる。


    ワインへの深いこだわりと知識。どのような客も楽しませる包容力。若くしてそういったチカラを手にした田井くんはしかし、力まず、飾らず、決して狙ってやっているわけではない。


    私などその典型なのだが、人は他人の目を気にしがちだ。しかし、田井くんからはそれがまるで感じられない。彼は「常に自分に正直に生きている」だけなのだ。カッコつけていないのにカッコいい。いや、カッコつけていないからこそカッコいいのだ。


    19歳で決めた自分の道

    カッコつけていないのにカッコいい、と、20歳以上も年上のオヤジを嫉妬させる田井くんの「STYLE」は、どうやって確立されていったのか。田井くんのこれまでの人生にその答えがあるはずだ。


    田井くんは、いま30歳。いわゆる「ゆとり世代」と呼ばれる若者たちの第一世代だ。どんな少年時代を過ごしてきたのだろうか。


    「どこにでもいる普通の学生でしたよ。音楽が好きで軽音部に入って友人とバンドを組んだりして遊んでいました。ちょっと変わった経験を強いて上げるとすれば、高校1年生の春に沖縄へ一人旅したことくらいかな。ただあまりちゃんと調べて行ったわけでもないので、沖縄の知識があまりなくて。内陸地のペンションを取っちゃって(苦笑)。高校生だったので車も運転できないし。沖縄に行ったのにほとんど海にも行かず、ずっとペンションで過ごしてました。でも、そのとき出会ったペンションのバーテンダーがかっこよくて。毎日話をしてくれました。それがバーで働きたいと思うようになった原体験かもしれませんね」


    この沖縄エピソードは、氷山の一角ながら田井くんSTYLEを紐解くヒントだ。高校1年生の沖縄一人旅って、まあまあハードルが高いと思う。やりたいと思ったことをさっくり実現する行動力は、その後の人生にもいかんなく発揮される田井くんのおおきな個性だ。そして、ハードルが高い旅にもかかわらず緻密に計画することなく出発。けっこう行き当たりばったりなのだ。

    がしかし、海に行けず内陸ペンションにこもることになっても、ちゃっかり楽しみを見つけていく。変化対応力、臨機応変さが垣間見える。


    「大学に入ったら、バーテンダーのアルバイトをしたいと思っていました。それで大学1年のときに、友人の母親の招待で入ったオーセンティックなバーがかっこよくて、その場で働かせて欲しいと直訴しました。バイトの時間は本当に楽しかったですね。特にお客さまと話すのが大好きでした。この頃には将来バーで働こうと思っていました。だから就職活動は、親のために申し訳程度にアパレルの企業を一社受けたのみ。バーテンダーに学歴は必要ないと思っていたので、本当は大学をすぐにでも辞めたいと思ってたくらいです」


    かっこいいと思ったバーで、すぐさま働かせてほしいと申し出る。ここにも田井くんらしさが発揮されている。そして、この頃すでに人生の進路を決めていた。大学生活をモラトリアムの期間と捉える若者が多い中、彼は、「自分のやりたい」に真っすぐな人なのだ。


    30を前に手に入れた自分の店

    「大学を卒業して、本格的にワインの勉強をしたいと思い、24歳のときにフランスに留学しました。実は当時、ソムリエの試験勉強に嫌気が差している時期でもあって。『資格も大切だけど、実際にワインづくりに携わった方が理解力も高まり、いいサービスができるはず』と思うようになって。それに資格を持っている人たちはたくさんいるので、そことの差別化を図るのにも、フランスでワインづくりに携わるのは、自分にとって大きなメリットになると思ったんです」


    その後の人生に大きな影響を与えることになる渡仏の決心。「やりたい行動力」と「臨機応変力」に加え、差別化を図るといった「戦略性」もうかがえるエピソードだ。


    「当初は、見たいものだけ見たら半年で帰る予定でした。でも、フランスで出会ったワインや食事、そしてそこで暮らす人々のナチュラルな優しさや温かさが心地よくて、帰りたくなくなってしまったんです。それで滞在を延期して、現地で知り合ったフランス人の友人の家に泊まらせてもらいながら、結局1年3カ月フランスで生活していました」


    半年の予定から1年3か月へと滞在延長。ここでも田井くんらしさがにじみ出ているが、海外での滞在を延長するということ自体は、一般的にも少なくない事象だ。

    しかしながら、現地で知り合って友達になったフランス人の家に転がりこむというのは、なかなかできることではない。受け入れてもらう人懐っこさもさることがら、他人の家での生活は、想像以上に気をつかうものだ。ある意味で鈍感力的な逞しさを持ち合わせてないとできない判断だ。


    「ずっと30歳で独立することを考えていたんですけど、帰国して今の会社に入社して。僕のリクエストでこの店をオープンしてもらったんです。店のデザインも僕がいることを想定して作っていただけて。このテーブルの高さって、実は僕の身長に合わせて作ってるんですよね。そういった意味でも本当に感謝しかありません。独立してやりたいなと思っていたことが、この店で全部実現しちゃって。今では、もう独立しなくてもいいかなと」


    自分のバーを持つ。大学時代から思い描いていた夢をなかば実現した田井くん。100%の独立という形態にこだわらない柔軟さも彼らしい判断と言えよう。


    常に自分に正直に生きている その素直さこそが人間力に通じている

    彼のこれまでの人生についてじっくり話を聞かせてもらって思い出したのが、D・クランボルツ教授の「計画的偶発性(プランドハップンスタンス)理論」だ。

    一般的に「キャリアプラン」というと、本田圭佑選手やイチロー選手のように、中長期の計画をしっかりたて、着実に実行していくというイメージが主流だろう。


    しかし、このキャリア理論は、

    ・個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される

    ・その偶発的なことを計画的に導くことでキャリアアップをしていくべき

    という立場をとっている。


    そして、その実現のために

    (1)「好奇心」―― たえず新しい学習の機会を模索し続けること

    (2)「持続性」―― 失敗に屈せず、努力し続けること

    (3)「楽観性」―― 新しい機会は必ず実現する、可能になるとポジティブに考えること

    (4)「柔軟性」―― こだわりを捨て、信念、概念、態度、行動を変えること

    (5)「冒険心」―― 結果が不確実でも、リスクを取って行動を起こすこと

    という5つの行動指針が必要だと説く。


    これ、田井くんじゃん!


    田井くんは、図らずもこの5つをすべて実践して生きてきたのだ。そして田井くんは、実は、また新しい挑戦を始めようとしている。

    結婚した奥さんの実家がある徳島に移住し、この秋から農業の道に足を踏み入れるのだ。


    聞いた時には耳を疑ったが、クランボルツの理論を地で行く彼は、この店は、まだまだ安住の地ではなかったようだ。

    常に自分に正直に生きている。そして潔い。カッコつけていないのにカッコいい、と感じさせるのはそういう生き方からにじみ出てきた彼の雫なんだろう。


    今日も午後6時になると、代々木上原の駅前に小さなワインバーの看板が出る。居心地のいい空間で、童顔のソムリエが待っている。

    秋がくるまで、あと何日通えるだろうか…。


    ◆本件に関するお問い合わせ先

    ツナグ働き方研究所(株式会社ツナググループ・ホールディングス)
    担当 :和田
     ※お問い合わせは、お問い合わせフォームからお願いいたします。