Column

2017.07.21

【店長応援企画・店長のミカタ】キャリアを後押しした店長経験/スープストックトーキョー江澤身和氏×ツナグ働き方研究所 所長 平賀

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おもてなしの国ニッポン。その世界最高峰のサービス力の裏側には、課題が山積しているのも事実。その矢面に立ち奮闘しているのが、現場の店長たちだ。21世紀をリードするニッポンの店長像を模索し、飲食業の明るい未来を描いていきたい。
今回は、スープストックトーキョー(以下SST)の取締役人材開発部長である江澤身和さんをお迎えした。SSTにアルバイトとして入社。社員となって店長を歴任し、現在人事の最高責任者を任される江澤さんだからこそ語れる「現場への想い」についてお伺いした。

「世の中の体温をあげる」その理念を浸透させたい

平賀
先日、御社の「SSTグランプリ」を拝見して、感動しました。少し「SSTグランプリ」についてご紹介していただけますか。
江澤
「パートナーと社員のための『世の中の体温をあげる』成果発表会」というイベントで、昨年から始めました。SSTには、「世の中の体温をあげる」という理念があるんです。いろいろなお店を訪問すると、その理念を実現しようと努力しているエピソードがいっぱいあるんです。で、そんないい話は伝聞ではなく当人たちから語ってもらおうと。
平賀
なるほど。皆さんの熱量が半端なかったです(笑)。
江澤
私自身も最後のスピーチで思い切り泣いてしまいました(笑)。
平賀
僭越ながら「世の中の体温をあげる」という言葉ってとても秀逸だと思います。SSTのスープがお客様の体を温めるということだけでなく、スタッフそれぞれがお客様に温かい気持ちになってもらえるような働きかけをするという思いが、すごく伝わってきます。しかもお客様の体温があがったことを実感したスタッフの体温もあがっていって、その循環が世の中全体を温かくするという素晴らしい理念ですよね。
江澤
ありがとうございます。店長が日々口にするうちに、パートナーさんたちにも浸透していきました。新しい施策や取り組みをスタートさせる時などは、まず店長がパートナーさんに「なぜやるのか?」を何度も説明することが大事です。その答えの先に「体温をあげる」というキャッチーな言葉があって、それがパートナーさんにも伝わりやすかったんだと思います。
平賀
トップから現場のアルバイターまで、同じ思いを共有できている企業は強いですよね。江澤さんご自身が、もともとアルバイトとしてSSTに入られて、その後社員として店長職や法人営業部での仕事を経て、現在は人材開発部長として取締役にも就任されているということもあって、とても現場の温度感を大切にされているんだなと思ったんですよね。あらためて、江澤さんの入社のきっかけや、現在に至るまでの経緯をお聞きしたいのですが。
江澤
短大を卒業した後、しばらくフリーターをしていたんです。就活もしてなくて(笑)。学生時代はバイトばかりで、そもそも勉強するより働く方が好きだったんですけど、将来どうしたいというビジョンもなく。そんな中で、京都に旅行に行った時に宿泊したゲストハウスで、そのオーナー夫婦の生き方に触れ、初めて誰かのことを「うらやましい」と思ったんです。私もこんなゲストハウスを経営できたらいいなと。
平賀
経営を学びたくてSSTに?
江澤
いえ(笑)。その前に友人の勧めですでにSSTではバイトを始めていました。もちろん、自分に合ってる職場だなと思ってはいたんですが、その旅から帰ってきてからは、SSTでバイトしながら、経営を学べるような企業を探そうと思っていたんです。小さい規模の企業で店長職を経験させてもらえれば、学びながらお金ももらえるし。
平賀
その条件に当てはまるのは、まさにSSTですよね(笑)。
江澤
そうなんです(笑)。よくよく考えてみれば「あれ?ここには自分が思ってたものが全部あるんじゃないか?」と。それで、上司が「やる気があるなら推薦するよ」と言ってくれたので、契約社員、そして社員へとステップアップしていきました。
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新規事業への取り組みで新たに見えた課題

平賀
社員になった後は?
江澤
はい。丸ビル店の店長を任せていただきました。
平賀
店長になるには、どんなスキルが必要だと思っていましたか?
江澤
人、物、お金、という軸がある中で、物やお金のことは知識として習得できるけれど、やはり店長として信頼されなければ「人」はついてきません。他の部分が未熟だったとしても、パートナーさんやお客様のことをどれだけ考えて動けるかという、コミュニケーションの部分が大事なんだと思います。
平賀
江澤さんのその「人」への意識は、SSTのもともとの理念にも共鳴するものですよね。
江澤
SSTは「あなただから任せる」というようなチャレンジ人事があるんですよね。なので、キャリアの浅い年齢の若い社員が店長に抜擢されることもあります。
私は5年くらい店長として仕事をした後に、今度は法人営業部に異動になって、卸売りや百貨店での催事担当など、これまでとガラリと業務内容が変わりました。
平賀
お客様が個人から企業に変わったというわけですね。
江澤
2011年に販路を広げるための新規事業として始まった展開で、冷凍スープを百貨店などで販売するようになったんです。その最初の店舗の店長をやらせていただいたり、関西の百貨店の催事で販売したりと、初めての経験の連続でした。
平賀
従来の店舗の運営と比べて、どういう部分が難しかったですか?
江澤
通常の店舗では、お客様がうちに来ようと思って足を運んでくださるわけですが、冷凍スープの販売という形態では、いかにお客様に足を止めていただくか、ということが重要になります。関西の催事などでは、そもそもSSTを知らない担当者に、うちの商品の特長を分かってもらおうと必死でしたし、これまでの「待ち」の営業は通用しない世界だったんです。
平賀
SSTの魅力に気付いてもらうための言葉や接客が必要になってくるということですね。
江澤
そうなんです。自分はこれまでの仕事でもSSTの魅力をお客様に十分伝えてきたつもりだったのに「なんだ、全然できてなかったんじゃないか」と、あらためて気付くきっかけになりました。
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店長経験があったからこそ人材開発の仕事にも思いが込もる

平賀
その新規事業も順調に展開していく中で、今度は人材開発部長という、まさに「人」こそが大切と言っていた江澤さんにこそふさわしい役職に就くことになります。アルバイトからここまでステップアップするというのも驚きなのですが、江澤さんのお話を聞いていると、実は現場を本当によく知る人だからこそ、それこそ『体温をあげる人事の仕事』ができるんじゃないかという気もしてきます。
江澤
自分自身、このままこの会社でやっていくのかという迷いもなかったわけではないんですが、認められたことはうれしかったですし。会社としても「人」の部分をもっと強くしていきたいということで、私に人材開発の部分を一任してくれていると思うので。
平賀
「人をもっと強く」というのは、具体的にどういう課題感なのでしょう?
江澤
パートナーさんをはじめ、スタッフがSSTを好きになって楽しく働ける、という部分はずっと力を入れてきたことなので、これからも続けていくとして。SSTの「商品1個、店舗一つを取っても、妥協をせずにばか正直に真面目につくっている」という姿勢が、実はお客様にはしっかり伝わっていないんじゃないかということに、新規業態を展開していく中で気付いたんですね。スマートなイメージを大切にしているから、誠実な商品づくりや店舗づくりにスポットがあまり当たらない。でもそれは、私たちが内弁慶になっていたということなんです。
平賀
商品の良さがもっと外に伝わるような働き掛けが必要なんだと。
江澤
そうです。パートナーさんや店舗同士の団結は強いから、商品への愛というか、SSTの魅力はこれまでもスタッフ全員で共有できていたんですが、それがお客様に向いていなかったんですね。もっとたくさんの人に好きになってもらえるはずなのになと。
平賀
その思いが、「体温をあげる」というところに立ち返ってくるんですね。スタッフ一人一人の体温が上がれば、お客さんの気持ちをもっと動かすことができるという。そのための「SSTグランプリ」だったり。他にもいろいろな取り組みをされていますよね。
江澤
はい、「SSTグランプリ」を含めて12の人事施策を動かしていますが、その大半はパートナー向けの施策なんです。やはり大切なのは、現場でお客様と接するパートナーさんの理解とモチベーションだと、店長時代に実感しました。誰を一番巻き込むべきなのかと問われれば、迷うことなく「パートナー」なんです。ただの呼称ではなくて本当の意味での「パートナー」として、SSTの世界観を共につくり上げていってほしい──それが最大の原動力です。
平賀
一番注力しているのは?
江澤
まずはグレード制度でしょうか。社員のグレード制度やグレードに応じた育成計画も整えつつですが、パートナーのキャリアプランニングはすごく大事だと思っています。
平賀
なるほど。
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江澤
それから研修にも力を入れています。特に新業態の「家で食べるスープストックトーキョー」の方は、自分たちから積極的にお客様にコミュニケーションを取りにいくという、踏み込んだ接客が大事です。商品の魅力を言葉でどう伝えるかというのはもちろん、お客様に対して圧迫感を感じさせない接し方、立ち方なども研修で理解してもらえるように工夫しています。
平賀
やはり今の江澤さんの役割には、アルバイト経験、店長経験、新規事業の立ち上げと、全てが生かされているんですね。
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店長の醍醐味は育てたスタッフの成長をダイレクトに感じられる喜び

平賀
少し話題を変えて、現実的な人事にまつわる課題に対してお伺いします。今は世間的にはどの業界も人材採用が難しい時代だといわれていますが、御社はいかがですか?
江澤
ありがたいことに新店での募集には多くの応募がありますね。
平賀
紹介も多いのでは?
江澤
はい。自分もそうだったように、実際に働いている人が知り合いに胸を張って紹介できるような、そんな企業でありたいと思っています。
平賀
飲食業は構造的にも長時間労働になりがちですが、労働時間についてはいかがですか?
江澤
基本的には、月間約170時間の所定労働時間で残業は20時間くらいです。
平賀
それはすごい。200時間残業してる店長がざらにいる業界で。
江澤
残業ゼロの月を実現しようと本気で考えていて。去年の2月は平均残業が8時間までいったんです。健全な働き方が採用にもつながるし、残業が減れば教育にも時間が割けますから。
平賀
おっしゃる通りです。ただ分かっていてもそれが実現できない企業がほとんどなのですが。
江澤
経営会議で「人」のことはしつこく話すようにしています。母体のスマイルズには「何でこーなっちゃうの?」という風土があって。商品やサービスだけでなく、制度や仕組みについても、真摯に向き合って誠実につくっていきたいという共通意識があるんだと思います。
平賀
あらためて、江澤さんはこれまでSSTでさまざまな立場で仕事を経験されてきたわけですが、「店長」という仕事の面白さは、どんなところにありましたか?
江澤
私はやっぱり店長の仕事が一番好きなんですね(笑)。育てた子の成長がダイレクトに感じられて、その成長がそのままお客様の反応につながって。会社として取り組んでいる「世の中の体温をあげる」ということが、一人一人のパートナーさんの意識の変化によって成し遂げられていくという、その瞬間を見られるのは現場の店長ならではの醍醐味です。
平賀
もともとは経営を学びたいという気持ちから店長として働きたいと思った江澤さんですが、そこで一番大切なのは「人」であるということを強く実感したことは、その後のキャリアにも結び付く重要な経験だったんですね。ところで、働き始めた当初に抱いていた「ゲストハウスを経営したい」という夢はまだ持っていますか?
江澤
SSTで、まだやるべきことがたくさんあるので、今は少し脇に置いていますけど、完全に諦めたわけではないです(笑)。
平賀
そうなんですね(笑)。今日は、店長という立場での仕事経験が、どれだけ今後のキャリアを後押ししてくれるかという、とても励みになるお話を伺うことができました。それから、「超」がつくほどホワイトな店舗運営を実現してらっしゃるSSTの取り組みの秘訣も。お忙しい中、ありがとうございました。
本件に関するお問い合わせ先

ツナグ働き方研究所(株式会社ツナグ・ソリューションズ)担当 牧戸(まきと)
Tel:050-3816-5568
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プロフィール

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江澤身和(えざわ みわ)

株式会社スープストックトーキョー 取締役兼人材開発部 部長。
2006年、パートナーとして入社。Soup Stock Tokyoで社員登用された後、複数店舗の店長を歴任。その後、法人営業グループへ異動し、冷凍スープの専門店「家で食べるスープストックトーキョー」のブランド立上げと17店舗の新店立上げを経験。これまで育成してきたパートナーは300人以上、そのうち、14人が現在社員となっている。現在は、株式会社スープストックトーキョーの取締役兼人材開発部の部長として新たな採用・育成の仕組みづくりに取り組む。

平賀充記(ひらがあつのり)

ツナグ働き方研究所 所長
1988年リクルートフロムエー(現リクルートジョブズ)に入社。「FromA」「FromA_NAVI」「タウンワーク」「とらばーゆ」「ガテン」などリクルートの主要求人媒体の全国統括編集長を歴任。2014年株式会社ツナグ・ソリューションズ取締役に就任。2015年ツナグ働き方研究所を設立、所長に就任、今に至る。