【多様な働き方を研究するコラム】
新人の心をイチ早く掴むコミュニケーション理論
いうまでもなく4月は、ニッポン国中が新生活に突入した人で溢れかえる季節。街のあちこちで着慣れないスーツに身を包む社会人1年生を見かけます。アルバイトシーンにおいても、大学4年生のスタッフが卒業した職場では入れ代わりに入社した新人が大量にデビューする時期です。
さて、この大量新人たちをいかに戦力に変えていけるか。いや、もっと手前で、いかに辞められずに定着してもらえるか。
バブル期を超える空前の人手不足時代、貴重なアルバイトスタッフの定着マネジメントは一丁目一番地。
そういった意味でも、この季節の職場づくりは極めて重要な意味あいを持っています。
我々ツナグ働き方研究所の取材で、スタッフが辞めない職場づくりに成功している店長さんの共通点は、コミュニケーションの熱量がすごいという点です。
ゆとりさとりといわれるクールな草食世代であり、スマホやSNSでコミュニケーションをとるデジタルネイティブ世代には、ある程度の距離感を保ったほうがよいのではという一般論なんか、全く意に介していない店長さんがほとんどでした。
ある店長さんは、
「大事なのはシンプルに愛だと思うんですよね。僕はスタッフを死ぬほど愛しているから、スタッフも愛してくれる。愛されていると感じていれば、仕事で注意されても『怒られてる』とは感じない。自分のために『叱ってくれている』と思ってくれます」
と熱弁をふるってくれました。
別の店長さんは、
「間違いなくコミュニケーションは質よりも回数だと思います。自分は何か問題が起こったら、小さなことでもその場ですぐ言います。だから最初は怖がられます。でも、その倍くらいの回数で、その後ポジティブなコミュニケーションをとり続けます。
何でもいいんですけど、話す回数を増やすんです。その積み重ねが信頼関係につながると思いますね」
と持論を展開してくれました。
とにかく熱い、いや暑苦しいくらい。
しかし「熱量」コミュニケーションは、実は非常に理に適っているのです。
「ジョハリの窓」というコミュニケーション理論を用いて、彼らが信頼関係を構築するメカニズムについて考察してみましょう。
ジョハリの窓は、心理学者ジョセフ・フト氏とハリー・インガム氏が発表した「対人関係における気づきのグラフモデル」です。
自分の情報を二軸四象限で表したそのひとつひとつの象限を「窓」と呼び、それぞれ
「1.開放の窓」
「2.盲点の窓」
「3.秘密の窓」
「4.未知の窓」
と位置づけられています。
なかでも、信頼関係を構築するための鍵となるのが3の「秘密の窓」。これは“自分はわかっているが他人はわかっていない”というすなわち「ホンネ」を意味する象限なのです。
この「秘密の窓」を開けていくことができれば、つまりホンネを引き出せるくらいの距離感に持ち込めれば、それはお互いが信頼しあえる関係性が築けたということに他ならないわけです。
しかしながら入社したてで緊張感いっぱいの新人アルバイトが、簡単に「秘密の窓」を開けてくれるわけがありません。
そこで有効になるのはふたつのアプローチです。
ひとつめは、自分の「秘密の窓」を開けること。
こちらから、心の服を脱いで真っ裸になって本音をさらけ出していけば、相手も少しずつではあっても、心を開いてくれるようになります。
もうひとつが、2の「盲点の窓」へのアプローチ。
自分でも自覚できてないような部分を褒められたら、人は当然嬉しい気持ちになります。
ちゃんと見ていてもらっているという安心感につながり、心を開いてくれる第一歩となるでしょう。
「挨拶の声が大きい」「礼儀正しい」「清潔感ある制服の着こなし」等、新人が意識しないで一所懸命行っていることを、さらりと褒めてあげるだけでよいのです。
前述したイケてる店長たちの熱量コミュニケーションは、全員が全員、この「ジョハリの窓」理論を実践しているといえます。
しかしながら、彼らはこういったコミュニケーションを直感的に実践しているのであって、極めて属人的なノウハウに終始しがちです。だからこそ、信頼関係を構築するコミュニケーションメカニズムと紐づけていくことに意味があるのです。
イケてる店長のコミュニケーションエッセンスが型化され共通言語化されることで、そのノウハウがメソッドとして確立するからです。大量にデビューする新人とイチ早く関係性を構築し、離職を抑止するためには、店長をはじめとした現場マネジメント層にコミュニケーションのメカニズムを体系的にインプットすることが極めて有効。
ジョハリの窓、参考にしてみてください。
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担当 :和田
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