【店長応援企画・店長のミカタ】アルバイト人材のマネジメントとは?
らしさラボ伊庭正康さん
おもてなしの国ニッポン。その世界最高峰のサービス力を支えるのは、間違いなく現場を仕切る店長だ。「飲食業界」を牽引する主役たちを、どのように支援していくのか。この命題は非常に重要なイシューだ。
今回は、リーダーシップを中心にマネジメント関連の著作活動、講演活動、あるいは企業研修を精力的にこなす「らしさラボ」代表の伊庭正康氏をお招きした。伊庭氏は、リクルート時代の3つ下の後輩にあたるが、今ではお互いに違った角度から「働き方」や「マネジメント」といったテーマに取り組む同志だ。ふたりで、アルバイト人材の職場マネジメントについて、その課題や解決のためのヒントを探ってみた。
※2018年に続く2回目のご登場です。前回対談時の模様はこちらからどうぞ。
【店長応援企画・店長のミカタ】店長向け働き方改革のヒント(後編)・らしさラボ・伊庭正康さん
- 平賀
- 『できるリーダーはこれしかやらない』を読ませていただいたんですが、拙著『なぜ最近の若者は突然辞めるのか』で書いた職場マネジメントのやり方、在り方と非常に近いものを感じました。で、この内容で対談させていただこうと思ったんですが、直近に上梓された『プレイングマネジャーの基本』は、まさに飲食店店長にとってドンピシャの内容で。今日は、いろいろと語りあいながら飲食店での現場マネジメントスキルについて考えていきたいと思います。
- 伊庭
- 僕の本では、マネジメント層に直接アドバイスをしているのですが、平賀さんの『なぜ最近の若者は突然辞めるのか』は、働く側にスポットを当てたうえで、マネジメントを考えさせる内容ですよね。すごく興味深く読ませてもらいました。
- 平賀
- ありがとうございます。最近の若者については、後で詳しく聞いてみたいのですが、そもそも伊庭さんが「働き方」とか「マネジメント」について本を書きたいと思うようになった動機って、どのあたりからきているんですか?
- 伊庭
- 僕と平賀さんは前職が同じリクルートだったので、共感してもらえる部分も多いと思うんですけど、僕は営業職でリクルートに入って、そこで出会った上司や先輩から受けた影響がすごく大きいんですよね。
- 平賀
- だからリーダーシップとかプレイングマネージャーっていうテーマについて、今いろいろと考えたり伝えたりしていきたいという思いが強くなっているんですね。
- 伊庭
- 例えば、ルーティンの仕事や単純作業の仕事も、もっとこうしたら楽しくなるのにとか。少しだけ期待値を超えるようないい仕事をできた時、見える景色が違ってきて。そこから仕事に対する考え方が変わってきたりとか。それを伝えたいんですね。
- 平賀
- 伊庭さんの本には、仕事上のワクワクっていうことが書いてありますよね。働く上での高揚感が大事だっていうことを言ってるような気がしました。
- 伊庭
- 些細なことほど楽しくやろうっていうのは、仕事に対して昔からずっと思っていることだったりもするので。
- 平賀
- リーダー自身がかっこよくあれというのも漂ってきます。
- 伊庭
- 僕自身が昔、上司にそういうリーダーシップを見せてもらったので、それを継承していきたいという思いもあるんですね。
- 平賀
- やっぱり「Will Can Must」の「Will」がしっかりしていることがベースというか。
- 伊庭
- まさに。僕自身に置き換えて考えてみたときに、なぜ自分は常に「Will」を持てていたのかと言えば、そこには上司の優れたリーダーシップがあって、仕事への向き合い方を常に問われていたんですね。その結果としてより仕事を楽しめるようにもなった。
- 平賀
- リーダー自身に「Will」がないと働くことを楽しめないし、スタッフに仕事の面白さなんて伝えらませんしね。
- 伊庭
- そういうのって、割と当たり前のことだったんだけど、こうして世の中を見ていると、意外とそれは普通のことではなくなっていて。
- 平賀
- 仕事へのポジティブな動機付けができていなくて、つまりは上司やリーダーが、スタッフに対して働く意味や意義に気づくきっかけを与えられていないというか。
- 伊庭
- むしろそのリーダー自身がくたびれて疲れてしまっているというのが現状ですからね。だから、そこを変えていきたいって思うんです。
- 平賀
- 教えられる側の若者も変わってきています。「なぜこれをやらなければいけないのか」という説明を求める人が多いんですよ。だからこそリーダーの動機づけは、すごく重要になってきている。
- 伊庭
- そもそも数字のためだけに頑張れる人なんて、そうそういないですからね。僕らの時代だったら、これを頑張ればマネージャーになれるとか、達成すれば評価してもらえるとか、そういうモチベーションがありましたけど、いまはそんな時代ではなくなりましたし。
- 平賀
- 出世欲みたいなものも少ないし、それが仕事を頑張る動機にはなり得ないんですよね。だからモチベーションを上げる方法も、昔より難しくなってるっていうのはある。
- 伊庭
- そうですね。飲食店で言えば店長とかマネージャーも、スタッフの心に火をつけたいんだけど、「マネージャーになるために、えらくなるために頑張れ」っていう動機付けはもう無力化していますからね。もう「将来のため」なんて言葉は響かないですよ。
- 平賀
- だから仕事の意義や貢献意欲に火をつけるほうがコミットしやすいと思います。
- 平賀
- 仕事を「目的」で語るとかなり変わるという話が、最近よく耳にします。本にも書いたんですが、たとえば『サザエさん』に出てくる酒屋のサブちゃんっているでしょ?サブちゃんって実は最高の御用聞きで、サザエさんのコンシェルジュって言ってもいいくらい。あれくらいのスタンスで仕事ができたら最高なんじゃないかなと。サブちゃんも仕事を楽しんでるし、顧客の役に立ちたいって自然に思っていて。そういうふうに「仕事」できたらよくない?って伝えると、すごく頑張れるんですよね。
- 伊庭
- そうですよね。
- 平賀
- それを、「あれやって」「これをやって」「メールは30分以内に返信するように」とか、やるべきことだけを指示しても、仕事を楽しめるわけなんかなくて。
- 伊庭
- ほんと、おっしゃるとおりだと思います。ファストフード店とか大手チェーンの飲食店企業なんかだと、業績が悪化すると係数管理とか合理化の方向にマネジメントはシフトしていくんだけど、その結果、利益優先になって、サービスは劣化、だから従業員は辞めていくっていう負のスパイラルに陥ることが多くて。そんな時はほんとは店長はじめ、従業員一人一人に仕事観を持って働いてもらうための教育が必要なんですけどね。
- 平賀
- トップの意思決定によって大きく左右されますよね。飲食店は特にダイレクトに経営方針が現場に反映されますし。
- 伊庭
- だからこそ現場では、アルバイター一人一人に、「何のために」この目の前の仕事をするのか、ってことを教えるのが店長の役目かなと思います。
- 平賀
- 若いスタッフそれぞれに、仕事観をちゃんとつけていく、自立自走させるっていう時に、それはやっぱり発言の機会を与えないとよい方向には動いていかないという話を聞くんですよ。でも発言させるためには職場の空気が固いと無理だよと。うまくまわっているところは、その雰囲気づくりをすごく丁寧にやっている気がしますね。
- 伊庭
- 大事ですよね。店長とスタッフの対話はすごく大切だと思います。
- 平賀
- 伊庭さんが今、現場の店長さんやマネージャーさんに、そのためのアドバイスをするとしたらどんなことを伝えますか?
- 伊庭
- そうですね……やはり一番はスタッフ一人一人と、一対一で会話する時間をちゃんと持ちましょうということですかね。一対一の面談で、すべてのことに意味を持たせて、ちゃんとわかってもらうことが大事だと思うんです。
- 平賀
- 具体的に言うと?
- 伊庭
- 例えば時給が10円上がりましたと。そのアルバイターとしては何の説明もなければまあ、たかが10円だし、続けていけば、これくらいは上がっていくものなのかな、で終わりなんですよ。でも、「今回はあなたのこういうところを評価して時給を上げました」と、きちんと説明されたなら、すごく納得感のある10円だし、そこで「今後も期待してます」っていうことを伝えれば、昇給の意味を理解してもらえるんですよね。そういう当たり前に大事な会話をしていない店長が意外と多いように思います。
- 平賀
- 店長の中には「俺は人心掌握は得意だから」っていうタイプの人もいるけど、そういう人でも一対一の面談は「してない」っていう人が割といて。
- 伊庭
- それで言うと、僕が必要だと言っている面談は、店長が「聞く」ほうの面談かもしれません。もちろん店長から伝えることも大事なんですけど。基本的には相手から「3つの『不』」を聞くべきだと。
- 平賀
- 3つの『不』とは?
- 伊庭
- あ、これはくらたまなぶさんの本に書いてあったことを、そのまま言っているだけなんですけど(笑)、「不満」「不安」「不便」を「3つの『不』」って言うんですね。くらたさんの著書によれば、それはほぼ同僚の愚痴なんですって。無駄なリサーチはいらないから、とにかく愚痴に耳を傾けるべきなんだと。それはすごく僕自身にも響きました。「不」に耳を傾けるというのは、どんなビジネスにも通ずることだなと。
- 平賀
- 一対一の会話で「不」を聞き出すことって、スタッフのガス抜きっていうことでもあるのかな?それとも「不」を見つけることがモチベーションを上げるヒントにつながっていくのか。
- 伊庭
- 両方あると思います。ただ、最初に「困ったことはある?」って聞いても、「ないです」で終わるのがファーストステップ。セカンドステップとしてようやく出てくるのが「ちょっと席がせまいんです」とか「残業が」っていう「不便」や「不満」。で、サードステップで初めて「提案」が出てくることがあるんですよ。「不」を聴き続けていくうちに、「研修でもやったらどうですかね」とか。その発言を引き出すまでには時間がかかります。なので、その人の主体性を引き出すために、時間をとって「不」を聞いていくっていうことなんでしょうね。
- 平賀
- なるほどね。主体性を引き出すためには、確かに十分な対話が必要ですよね。主体性が引き出されたら、ようやくその人の「Will」が言語化されて、それがその人の仕事観につながっていくわけだしね。
- 伊庭
- そうなんですよね。特にアルバイトの場合は、もしかしたらその「Will」は現在の職場にはなくて、例えばダンスをやりたい、音楽をやっていきたいっていうのが、その人の「Will」だっていう場合もあるわけで、店長はそっちの「Will」にも向き合って、どういう働き方が良いのかを一緒に考える必要もあるわけですよ。
- 平賀
- いずれにせよ、今は店長自身が忙しすぎるっていうのもあって、店長やマネージャー自身が「Will」を見失いかけてるという現状があるよね。どれだけその余裕と時間を確保するかという問題は根強くあるんだけど。
- 伊庭
- 業務を抱え込みすぎてるっていうのはありますよね。だから店長がスタッフに、できるところは権限委譲するっていう判断も必要だし、そのためには、やっぱり面談が必要なんだと思います。
- 平賀
- そうですね。どこまで譲るのかっていうのは一概には決められないだろうけど、さっき言ってたように「提案」まで引き出せるようになったら、その部分は思い切って任せてみるとか、そういう仕事のまわし方が職場を活性化させることにもつながるかもしれないね。
* * *
我々は、リクルートという会社で、毎日のように「で、お前はどうしたいんだ?」と問われ続けながら育ってきた。だからなのか、「Will」という言葉というか概念というか、自分自身が「軸」や「熱」を持つということを、伊庭さんはとても大事にしている。彼の著作や研修トレーニングにおける要諦は、それを伝えることなんだろう。
「Will」を持ち続けることはなかなか難しいことではある。しかしリーダーは、やはりカッコよくありたいと思う。そいういう生き様があって、マネジメントがあるんだろう。
◆プロフィール
伊庭正康(いば まさやす)
株式会社らしさラボ
代表取締役
◆本件に関するお問い合わせ先
担当 :和田
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