【短期集中連載】外国人技能実習生現場レポート Vol.3
深刻な人手不足を受け、外国人労働力をめぐる議論が活発化している。いうまでもないが、外国人就労政策は移民政策と対をなす非常にナーバスなテーマだ。だからこそ歴代の日本政府はここまで慎重の上にも慎重を期した対応をしてきた。そうした葛藤の中で、妥協の産物として事実上の外国人就労を担ってきたのが「外国人技能実習制度」なのだろう。
政府が外国人受け入れ政策を大転換するのは、この技能実習という建前と本音の軋みに、限界を感じたからなのかもしれない。ツナグ働き方研究所は、少しでも外国人就労の実態に迫りたいと考え、外国人技能実習生についてその現場を緊急取材。
第3回目は、ベトナム人へのインタビューをお届けする。前回紹介した千葉県松戸市の監理団体・エムテック協同組合に在籍するベトナム人通訳のおふたり。同団体がていねいな「ホワイト実習」を実践できているのは、彼らが同胞であるベトナム人実習生を日々サポートしているからだといっても過言ではない。理事の高橋さんに加え、実習制度のキーマンに話を聞いた。
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・外国人技能実習生現場レポート Vol.1:「外国人技能実習制度の矛盾」
・外国人技能実習生現場レポート Vol.2:「「ホワイト実習」を実践する監理団体・エムテック協同組合 理事インタビュー」
- 平賀
- 前回は、ベトナム人技能実習生の受け入れを行なっているエムテック協同組合の監督の様子についてお伺いしました。「ホワイト実習」を実践するためには、実習生の給与支払いをしっかり監督することがとても重要であると教えていただき、非常に腹落ちしました。今回は、そういったきめ細かい監督を実践するための日々の運用について、もう少し掘り下げていきたいと思います。
- 高橋
- 自分から希望して来るとはいえ、よその国で働くのはやっぱり大変ですからね。
- 平賀
- そもそも言葉の壁がありますしね。エムテックさんには、そういった実習生のフォローをするために、実習生と同じベトナムから来た通訳さんがいらっしゃるんですよね。
- 高橋
- 言葉が通じて、文化や価値観が同じっていうのは、やっぱり実習生にとっては大きな安心材料だと思うんですよね。その子たちが、月に一回面談しながら相談にのります。
- 平賀
- ここからは、通訳のクオンさんとホワイさんも交えてお話を聞きたいと思います。 ちょっと失礼な聞き方かもしれないですけど、おふたりにとって僕の日本語は、このくらいのスピードでも大丈夫ですか?
- クオン, ホワイ
- 大丈夫です。
- 平賀
- なるほど。すばらしいですね。おふたりは日本にどのくらいいらっしゃるんですか?
- クオン
- 私は4年くらい。
- ホワイ
- 私は、3年半くらいですね。
- 平賀
- 日本語はどうやって習得されたんですか?
- クオン
- 私は日本語学校から留学生として日本へ来ました。それで3年くらいで日本語学校と専門学校で勉強して、去年4月からここ(エムテック)に就職しました。今は通訳とか、書類の作成とか、仕事しながら学んでいるところです。
- ホワイ
- 私はベトナムの大学の日本語学部で4年間勉強していて。卒業してからベトナムで就職して6年間働いて。日本に行く希望があったので日本に来ました。うちの組合はいつも実習生の面接にベトナムに行くんですけど、その時の通訳の募集があって。私はベトナムで面接を受けて合格して、認定証明書を申請して日本へ来ました。
- 平賀
- 今後、母国に帰ろうかなと考えていらっしゃいますか?それとももうずっと日本にいたいですか?
- クオン
- 私は日本に。
- ホワイ
- 私もずっと日本を希望してます。
- 平賀
- 本当に?日本に気を遣ってませんか?大丈夫ですか?(笑)
- 平賀
- さて、ここからはお仕事の話です。たくさんの実習生と面談して、たくさんの相談を受けるのは大変な仕事です。実習生が困ってることや不平不満があるとしたら、どういうことが多いですか?
- ホワイ
- そうですね、お給料に関しては、うちの組合は特に彼らのお給料を細かくチェックしてますので、不満は持っていないと思いますが、「昇給してほしい」というのは、たまにあります。
- 平賀
- お給料を細かくチェックするというのは高橋さんからも聞きました。不満がないというのはやっぱりきちんとやってるからですよね。
- 高橋
- 人間関係と仕事内容と昇給、良く出る話は基本的にその3つですね。
- ホワイ
- やっぱり人間関係が大変です。職長さんや会社との関係がうまくいっていない子もいます。
- 平賀
- それって、やっぱり日本語の習得レベルと関係ありますか?
- ホワイ
- 関係あります。ちょっと聞き取れないと、こうやれと言われてもわからなくて、 それで何で怒られたのかちゃんと理解できないこともありますし。
- クオン
- 日本に来たばかりの実習生は、日本語がわからないから仕事もわからないんです。受け入れ会社もちゃんと説明してあげたいんですけど、日本語がわからなかったら難しくなりますから。
- 高橋
- 言葉の壁という問題以外にも、文化というか習慣の違いで実習生が気づかないうちに失敗する、みたいなことは、どうしても起きます。たとえば職人さんと一緒にやるような仕事だと、作業の進め方も心構えも、独特なものがあったりしますからね。改めて教えられたりはしないことも結構あるから、実習生も気づかないままの状態が続いちゃって、そのうちだんだん空気がおかしくなる、とかね。
- 平賀
- 相談を受ける中で、実習生の方に「それはあなたの方が良くない」とか「それくらいもう少し頑張らないと」というような指導をすることはあるんでしょうか。
- ホワイ
- そういう風に言うと、実習生は自分が守られてないと感じます。まずはゆっくり話を聞くようにしています。
- 高橋
- 通訳の子達には、どんな内容にしろ、ひとまず実習生たちの話をじっくり聞くように伝えてます。その後で、実習生の言い分を受け入れ先の方にも確認します。それで大体の状況がこっちで把握できたところで、本人に少しずつ説明する、という手順を踏むようにしてます。
- 平賀
- 問題が起きた時は、まずは事実関係を把握するのが鉄則ですもんね。
- 高橋
- はい。特に国が違うことで、それこそ感じ方とかも違ってきますから。まあ、通訳の子たちも実習生から話を聞く中で、内容によっては正直イラッと来る時もあるかも知れないけど。だからってそういう時の対応を一足飛びに端折っちゃうと、いい結果にはならないから。
- 平賀
- それで実習生の言い分が正しかった場合、対応について受け入れ先の方に交渉することもありますか?
- 高橋
- 実際にどういうことが行われていて、どういう状況になってるのかを把握して、その材料を持って受け入れ先の会社に相談しに行きますよ。たとえばほんとに口の悪い荒っぽい職人さんの場合、相談してその人を別の現場に出してもらったり、別の部署につけてもらったりということもあります。もちろん話をしてみたら、ちょっとした勘違いだったということもあります。
- 平賀
- そうやって言葉や仕事を覚えていって、慣れてくるにはどのくらいかかるものなんですか?
- ホワイ
- 早い子は半年くらいでだいぶ慣れてきますね。でも安定するのはやっぱり1年くらいですかね。
- 高橋
- やっぱり入りたての頃は何かと大変そうですよ。だから、こっちも実習生達も最初の1年が勝負で、その間は色々と面倒を見ることがどうしたって必要になるんです。最初の1年を越せれば、2年目からはお互いだいぶ楽になってきますから。
- 平賀
- たとえばどういう面倒を見ることが多いんですか?
- 高橋
- 欠勤の連絡ひとつにしても、受け入れ先にすればいいものを組合に電話してくるんですよ。最初の時点で「どうしても休みたい時は現場の管理監督者に連絡しなきゃいけない」と指導してるんですけど、それでもかまわずこっちに電話してきますから。組合から実習先に欠勤連絡をしてほしいってことなんですよね。「子どもじゃないんだから」って言いたくなることも正直、あります(苦笑)。けど、そういうこともその都度説明してやってもらう、というのを繰り返します。
- 平賀
- なるほど。なかなか根気強くないとできないケアですね。そこまできめ細やかに対応していても、1年目を耐えきれずに「もうダメだ、帰りたいです」と言い出す実習生はいませんか?
- 高橋
- 本人が「やれません」となっちゃったら、それ以上続けるのは難しいですから、その時は「実習を中止します」ということで、帰国してもらいます。ただ僕が担当した実習生で帰った子がひとりもいませんけどね。
- 平賀
- それってすごくないですか?
- 高橋
- そのために、細かく細かく監督してますから(苦笑)。しかもうちの規模感で通訳を3人も4人も置いているところは少ないと思いますよ。
- 平賀
- なるほど。フォローにあたる通訳の存在が、やっぱおおきいんでしょうね。実習生にとっては、固定の担当者と毎月話す機会があらかじめ与えられているというだけで安心できるでしょうし。しかもその担当者が自分と同じ国の人なら尚更だと思います。クオンさん、ホワイさん、本日はありがとうございました。
エムテック協同組合が実践する「ホワイト実習」を支えているのは、まぎれもなく実習生に寄り添うベトナム人通訳のコミュニケーションだ。頭ごなしに接すると「自分が守られてないと感じるから」と、日々ていねいに向き合ってくれる同郷のサポートは相当心強いだろう。さて次回は、いよいよ実習生のインタビューをお届けする。こうご期待!
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